役員中傷のビラ配布・暴行、関係者への業務妨害は、共同の利益に反する行為
中傷ビラなど管理組合役員らの名誉をき損する文書をまいたり、暴行を働く、工事業者に工事を辞退するよう迫るなどの区分所有者の行為は「共同の利益に反する行為だ」として管理組合側の代表者が区分所有法五七条一項に基づき行為の差止めを求めた訴訟の上告審で最高裁第三小法廷は、管理組合側が敗訴した控訴審判決を破棄し、東京高裁に審理を差し戻した。
判決はまず、五十七条に基づく差止め等の請求は「内部の不正を指摘し、是正を求める者の言動を多数の名において封じるなど、少数の言動の自由を必要以上に制約することにならないよう、要件を満たしているか否かを判断するには慎重な配慮が必要」と、文書の配布等が直ちに「共同の利益に反する行為」に該当するものではない、との常識的な解釈を提示。
その上で那須弘平裁判長は、管理組合役員らを誹謗・中傷する文書を配布するなどの行為が単なる特定の個人に対する中傷等の域を超え、マンションの正常な管理・使用が阻害される場合は、「『共同の利益に反する行為』に当たるとみる余地があるというべきだ」とする考えを示した。
区分所有法57条に基づき差し止め請求
原告は神奈川県の団地型物件の管理組合元理事長。区分所有法五七条に基づく差止めは、団地の場合、相手方が居住する棟で決議を行う必要がある。
相手方の『報復』を危惧した当時の管理組合理事長が訴訟に消極的だった点もあり、相手方と同じ棟に住む元理事長が他の区分所有者を代表する形で原告に指定され、提訴した。
原告は法廷で相手方の態度を「マンションの区分所有者は何も加害行為をしていないのに、管理組合の役員に選任されただけで日常生活を脅かされ、極端な場合には身体に危険が及ぶ恐れがあることが住民の共通認識になっている」と述べ「マンションでは現在管理組合の役員就任を忌避する向きが生ずる厳しい状況に直面している」と訴えた。
中傷ビラの配布をやめさせたりするには、東京高裁判決が指摘するように被害を受けた本人が個別に指し止め等を求める手段があるが、管理組合側は、それでは意味がないと考えた。
相手方の行為で区分所有者が萎縮し、管理組合役員に就かなくなれば管理組合運営に深刻な影響が出る。この状況を生み出す相手方の行為は、適正な管理運営を破壊する「共同の利益に反する行為だ」と位置付けたからだ。
管理組合側代理人の大坪和敏弁護士は判決について「被告区分所有者の行為が建物の管理に直接かかわってくることではないため、一審・二審では裁判所と管理組合側の認識にズレがあったのかもしれない。ただ五七-五九条はニューサンスなどの生活妨害に対しても適用されるのは明らかです」と話す。
最高裁の判決については「当然の判決です」と述べた。(マンション管理新聞 第864号より)